平安貴族の年収換算
平安時代の貴族には、現代のような「月給」という考え方はありませんでした。
収入は、位階や官職に応じて与えられる土地・税収・絹や布などを組み合わせたものだったのです。
また、位階が六位以下の人は「貴族」ではなく、地下人と呼ばれ、五位以上の貴族とは身分だけでなく、給与や待遇にも大きな差がありました。
ここでは、律令官人の位階・官職による給与を示した学術資料(高島正憲, 2020)をもとに、現代の米価を使って年収を試算し、その差を確認していきます。
当該学術資料は奈良時代の経済学を研究したものですが、位田・位封などの制度は平安時代前期から中期にかけても基本的に引き継がれていたため、参考にさせていただきました。
ただし、荘園が広がった平安時代後期になると、貴族の実際の収入はこの数値よりも複雑だったと考えられます。
平安貴族の主な収入
| 項目 | 内容 | 現代で例えると |
|---|---|---|
| 位田 | 位階に応じて与えられる田地 | 基本給 |
| 位封 | 位階に応じて与えられる税収 | 基本手当 |
| 職田 | 官職に応じて与えられる田地 | 役職手当 |
| 職封 | 官職に応じて与えられる税収 | 組織の運営費(個人の給与ではない) |
| 位禄・季禄 | 絹・布・綿などの支給 | 賞与(ボーナス) |
位禄が支給されるのは四位・五位のみで、位田・位封などは六位以下には支給されません。
位封は位階(身分)に、職封 は官職(役職)に応じて与えられ、職封は役職を運営するための経済基盤という性格が強いとされるため、年収の合計には含めていません。
また、位封と職封は、どちらも「封戸」という形で与えられます。封戸とは、本来は国に納めるはずの税を、代わりに受け取れる家(世帯)のことです。
位階ごとの支給一覧(京官)
ここでは、位階に応じて支給された位田・職田・位封・職封
・位禄・季禄・資人
を、都で勤務する官人(京官)を対象とした学術資料をもとに一覧にしました。
ボタンを押すと、支給された品目そのまま(現物)と、このページの換算方法による現代円換算を切り替えて表示できます。
参考にした学術資料は奈良時代の官人給与を対象とした研究のため、当時の京 には従三位に相当する官職がなく、従三位はこの表から除かれています。
六位以下には位田・職田・位封・職封・資人は支給されません。
注意
このページに掲載した金額は、史料に記載された数値そのものではありません。
このページの内容は、『延喜式』の規定を用い、現代価値への換算は奈良時代の研究で示された米換算法を参考にした推計です。
- 1町=年間380束(田んぼでとれるお米500束から、営料(主に農民の取り分)120束を引いた、貴族の実際の取り分。農民の手元に残るのは25%足らずしかありませんでした)
- 封戸1戸=356.35束(1つの家が国に納めていた「租」=田の収穫にかかる米の税、「庸」=労働の代わりに納める税、「調」=絹や特産品を納める税を、まとめて稲の量に換算したもの)
- 位禄・季禄は現物を稲束に換算
- 稲束はすべて1石=20束として石に換算(この比率は資料に明記された数値ではなく、資料内の別表から独自に逆算した値です)
- 現代円への換算は、米1kg=400円(1石=約6万円)として試算しています。これは2024年の米価高騰以前の一般的な小売価格を基準としたものです。なお、2026年7月現在のように米価が約800円/kgとなる水準で換算すると、本ページの金額はおよそ2倍になります。比較の基準を一定に保つため、本ページでは当面この換算基準を採用しています。
- 資人(しじん・従者の人数)は、現代円換算の合計には含めていません
- 職封は、官職に付随する大規模な税収で、公的活動や家司 (貴族の家政を取り仕切る職員)・従者の維持にも使われたと考えられ、個人の可処分所得とは言い切れないため、年収の合計額には入れないことにしました
上位の位階の金額が高額になる理由
上位の位階ほど年収が極端に高く見える主な理由は「位封」にあります。位封は位階(個人の身分)に応じて与えられる収入として合計に含めていますが、その原資は封戸からの税収であり、実際には家政や従者の維持などにも充てられたと考えられます。このため、可処分所得になるかという点を考慮して、位封を含めない合計額も参考として表に記載しています。このページの金額は「現代の年収」と厳密に対応するものではなく、当時の経済的規模をイメージするための目安としてご覧ください。この金額を見る際は、次の点にもご注意ください。
- 正一位・従一位は、実際にはほとんどの場合、生前ではなく没後に贈られた位階であり、この金額を実在の人物が生涯にわたって受け取っていたわけではありません
- 米価を基準にした現代円換算は、位階が上がるほど誤差が拡大しやすく、あくまで大まかな目安です
参考文献
高島正憲(2020)「奈良時代における収入格差について」『経済研究』第71巻第1号、P63~P82の中からP72「表9」を参考にさせていただきました。
村井康彦(1968)『平安貴族の世界』徳間書店を参考にさせていただきました。