歌人に会える百人一首
後徳大寺左大臣
意味
ほととぎすが鳴いた方を眺めてみると、鳥の姿は見えず、ただ有明の月が残っていました。
解説
この歌は、「暁にほととぎすを聞く」というお題で詠まれた一首です。待ち望んでいたほととぎすの鋭い第一声にハッとして夜明けの空を見やったものの、すでにその姿はなく、ただ淡い光を放つ有明の月だけがぽつんと取り残されていた、という一瞬の情景を切り取っています。当時の貴族たちにとって夏の訪れを告げる鳥の声を聞くことは最高の風流であり、夜を徹して耳を澄ませたあとの静寂と、視覚的な余韻の美しさが鮮やかに表現された名歌です。
作者である藤原実定は、藤原定家の従兄弟にあたり、和歌だけでなく管弦の名手としても宮廷に名を馳せた、きわめて高い芸術的センスの持ち主でした。一族の栄誉を受け継ぐ名門の公卿でありながら、風流を心から愛し、鳥の声ひとつを聴くために夜を明かすことを厭わない、どこまでもロマンチストでみずみずしい感性の人柄が窺えます。この歌に漂う、音のあとに訪れる静けさや月光の余韻は、音楽を深く愛した実定ならではの、繊細な美意識から紡ぎ出されたものと言えます。
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