歌人に会える百人一首
皇太后宮大夫俊成
意味
つらい世の中から逃れる方法はないようだ。思い詰めて分け入ったこの山の中でさえ、哀しげに鳴く鹿の声が聞こえてくる。
解説
この歌は、平安時代の終焉が迫る混迷の世に俊成が詠んだ一首です。同世代の人々が次々と出家する中、自らも世の辛さから逃れようと山へ分け入ったものの、そこで聞いた雄鹿の悲痛な鳴き声に、どこへ逃げても悩みの尽きないのが人生なのだと悟る姿を描いています。静まり返った山奥に響く鹿の声が、俊成自身の胸の奥にある孤独や葛藤と重なり合い、深い哀愁となって心に染み渡る名歌です。
作者である藤原俊成は、定家の父であり、和歌に「幽玄」や「艶」という独自の美意識を打ち立てた偉大な歌人です。単に現実から目を背けて出家を急ぐのではなく、山奥の鹿の声にさえ耳を澄ませて人間の深い哀しみを捉えようとする、どこまでも繊細で誠実な感性の持ち主でした。ただつらいと嘆くだけでなく、その苦悩すらも芸術的な美へと昇華させようとする彼の徹底した美意識と深い精神性は、のちの茶道や能楽にも大きな影響を与えています。
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