時雨の百人一首

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Translated by WILLIAM N. PORTER
English Audio:LibriVox

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待賢門院堀川たいけんもんいんのほりかわ

長ながからむん
心こころもしらず
黒髪くろがみの
みだれてけさは
物ものをこそ思おもへえ

待賢門院堀川

みたれてけ
さはものを
こそおもへ

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80番歌
長ながからむん 心こころもしらず 黒髪くろがみの
みだれてけさは 物ものをこそ思おもへえ
作者:待賢門院堀川たいけんもんいんのほりかわ(生没年不詳)
出典:千載和歌集 恋
現代語訳
末永く愛してくれると言うあなたの心ははかりがたく、お別れした今朝の私はこの黒髪が乱れるように心も乱れ、物思いに沈んでいます。
解説
『千載和歌集』の詞書には「百首歌奉りける時、恋の心をよめる」と記されています。この歌は題詠で、崇徳院が主催した百首歌「久安百首」に詠進されました。恋愛で待つ立場の女性が感じていた不安や焦燥感が乱れた黒髪に例えられています。平安時代には長い髪が美の象徴とされたため、その乱れが心の葛藤を象徴していると考えられます。
どんな人?
待賢門院堀川は、崇徳院の生母である待賢門院璋子に仕え、崇徳院の時代に歌人として活躍しました。1142年には待賢門院とともに出家し、仁和寺で晩年を過ごしました。
品詞分解と文法
歌のイメージ
待賢門院堀川の歌のイメージ

この画像は、William N. Porter氏が1909年にイギリスで出版した百人一首の英訳本『A Hundred Verses from Old Japan』の挿絵を元にAdobe Firefly(生成AI)で色を付けて、アレンジしたイメージです。

待賢門院堀川の略年表
1126年
摂政左大臣忠通家歌合に出詠
1142年
待賢門院の出家に従って出家
1145年
待賢門院が死去
1150年
『久安百首』に百首を詠進
待賢門院堀川の相関図
  • 茶字天皇
  • 天皇の代数
  • 百人一首の歌番号(クリックで歌のページへ)
  • =婚姻
100%
仕える 美福門院 鳥羽74 待賢門院 近衛76 後白河77 崇徳7775 待賢門院堀川80崇徳院の久安百首の作者の一人となった

待賢門院堀川は、鳥羽天皇の中宮・待賢門院(藤原璋子)に仕えました。

付録
みだれ髪が詠まれた歌の変遷
古来、日本文学において「黒髪」は、恋心や悲しみ、女性の美しさを映し出す題材としてたびたび詠まれてきました。とりわけ「みだれ髪」は、時代ごとに異なる恋の心情を表現しています。万葉集では恋に乱れる心そのものが詠まれ、平安時代には乱れた髪が恋人との記憶を呼び起こす情景となり、近代には与謝野晶子によって、情熱や自己表現を託す題材として新たな意味を持つようになりました。
万葉の時代
―恋に乱れる心―
万葉の時代、髪の乱れは計算された情緒ではありませんでした。恋の苦しさに耐えかね、心が乱れてしまう様子が率直に表現されています。

原文

ぬばたまの 我わが黒髪くろかみを 引ひきぬらし
乱みだれてさらに 恋こひわたるかも 『万葉集』詠み人知らず

現代語訳

黒髪を引きほどき、心も乱れて、恋い慕い続けることよ。

平安中期
―恋人との触れ合いの記憶―
和泉式部の歌では、乱れた黒髪は、恋人が髪をかき分けてくれた記憶を呼び起こします。黒髪は、愛しい人のぬくもりや触れ合いを宿す象徴として描かれています。

原文

黒髪くろかみの 乱みだれも知しらず うち伏ふせば
まづかきやりし 人ひとぞ恋こいしき 『後拾遺和歌集』和泉式部

現代語訳

黒髪が乱れているのも気にも留めず、思い乱れて横たわっていると、かつて髪をかき分けてくれたあの人が恋しい。

平安後期
―恋の余情・未来への不安・面影―
平安時代後期になると、「黒髪」は恋の余情や未来への不安を映し出す題材へと発展します。待賢門院堀川は、一夜を共にした翌朝の乱れた黒髪に恋の行く末への不安を重ねました。一方、藤原定家は、黒髪の一本一本に恋人の面影がよみがえる様子を描いています。

原文

長ながからむん 心こころもしらず 黒髪くろがみの
みだれてけさは 物ものをこそ思おもへえ 『千載和歌集』待賢門院堀川

現代語訳

末永く愛してくれると言うあなたの心ははかりがたく、お別れした今朝の私はこの黒髪が乱れるように心も乱れ、物思いに沈んでいます。

原文

かきやりし その黒髪くろかみの すぢごとに
うち臥ふすほどは 面影おもかげぞ立たつ 『新古今和歌集』藤原定家

現代語訳

あなたがかきわけてくれたその黒髪の一筋一筋にあなたの面影が浮かんできます。

近代
―自己表現・情熱―
『みだれ髪』は、与謝野晶子と妻子のある与謝野鉄幹との恋を背景に生まれた歌集です。
社会規範の厳しかった時代に、自らの恋心や情熱を率直に表現した作品として知られています。

原文

黒髪くろかみの 千ちすぢの髪かみの みだれ髪がみ かつおもひみだれ おもひみだるる 『みだれ髪』与謝野晶子

現代語訳

黒髪が幾筋にも乱れるように、私の心もまた乱れ、あれこれと思い悩んでしまう。