時雨の百人一首

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Translated by WILLIAM N. PORTER
English Audio:LibriVox

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周防内侍すおうのないし

春はるの夜よの
夢ゆめばかりなる
手枕たまくらに
かひいなく立たたむん
名なこそをしけれ

周防内侍

かひなくた
たむなこそ
をしけれ

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はるの

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67番歌
春はるの夜よの 夢ゆめばかりなる 手枕たまくらに
かひいなく 立たたむん 名なこそをしけれ
作者:周防内侍すおうのないし(1037年頃~1111年頃)
出典:千載和歌集 雑
現代語訳
春の夜のような夢ぐらい儚いあなたの戯れの手枕のために何の甲斐もない浮名が立つことが惜しいのです。
解説
二条院で人々が夜を徹して語り合っていた折、周防内侍が「眠くなったので枕がほしい」と漏らしました。すると、大納言・藤原忠家が御簾の外から静かに手を差し出し、「枕にどうぞ」と申し出たのです。周防内侍はこの気品ある振る舞いに対し、即興で歌を詠んでやんわりと断りました。なお、藤原忠家は藤原定家の曾祖父にあたります。
どんな人?
周防内侍という女房名は父が周防守を務めたことに由来し、本名は平仲子たいらのちゅうしといいます。彼女は、後冷泉、後三条、白河、堀河の四代にわたって仕え、宮廷歌人として名を馳せました。その才能は高く評価され、『後拾遺和歌集』以降の勅撰和歌集には35首が選ばれています。
品詞分解と文法
歌のイメージ
周防内侍の歌のイメージ

この画像は、William N. Porter氏が1909年にイギリスで出版した百人一首の英訳本『A Hundred Verses from Old Japan』の挿絵を元にAdobe Firefly(生成AI)で色を付けて、アレンジしたイメージです。

周防内侍の略年表
1037年頃
誕生
不明
後冷泉天皇に出仕
1068年
後冷泉天皇の崩御で退くが、後三条天皇の命で再び仕える
1093年
郁芳門院根合に出詠
1108年頃
病のため出家
1111年頃
死去
周防内侍の相関図
  • 茶字天皇
  • 天皇の代数
  • 紫字摂政・関白になった人物
  • 百人一首の歌番号(クリックで歌のページへ)
  • =婚姻
100%
仕える腕を差し出した 定子 一条66 彰子 妍子 三条6867 敦康親王 具平親王の次女 嫄子 後朱雀69 禎子内親王 祐子内親王 禖子内親王 後冷泉70 後三条71 周防内侍67後冷泉・後三条・白河・堀河の4代に仕えた 白河72 堀河73 藤原道長 長家 忠家 俊忠 俊成83 定家97

周防内侍は、第70代天皇・後冷泉天皇の女房として仕えました。

百人一首に採られた和歌は後冷泉天皇の中宮・章子内親王の御所で女房たちが夜通し話していた際に詠まれたものです。このとき、藤原忠家が御簾の下から腕を伸ばしてきたのがきっかけとなり、歌が詠まれました。

付録
藤原忠家の返歌
周防内侍の「春の夜の…」の歌に対して藤原忠家は、次のように返歌しています。

原文

契ちぎりありて 春はるの夜よ深ふかき 手枕たまくらを
いかがかひなき 夢ゆめになすべき 『千載和歌集』藤原忠家

現代語訳

深い縁があって春の夜更けに差し入れた手枕をどうして儚い夢にしてしまうでしょう

評判になった「下萌え」の歌
下萌えとは、心の中で思い焦がれることのたとえとして使われる言葉です。この歌は、評判になり、周防内侍は「下もえの内侍」と呼ばれるほど、反響を呼びました。

原文

恋こひわびて 眺ながむる空そらの 浮雲うきぐもや
わが下萌したもえの 煙けぶりなるらむ 『金葉和歌集』周防内侍

現代語訳

恋に物思いをして眺める浮雲は、私が心の中で思い焦がれて生じた煙が雲になったのだろうか。

手放すことになった
家の柱に書き付けた歌
周防内侍が思い出が詰まった家を手放すことになり、その柱にこの歌を書きつけました。

原文

住すみわびて 我われさへ軒のきの 忍草しのぶくさ
しのぶかたがた しげき宿やどかな 『金葉和歌集』周防内侍

現代語訳

住みづらくなって、立ち退くことになった軒に生えている忍ぶ草よ。偲ぶことが多い家であるよ。

西行が周防内侍の
廃れた家で詠んだ歌
周防内侍がかつて住み、その後手放した家を、西行はまるで聖地を巡るような思いで訪れ、そこで次の歌を詠みました。

原文

古いにしえは ついゐし宿やども あるものを
何なにをか今日きょうの しるしにはせん 『山家集』西行法師

現代語訳

昔は長く過ごした家はあるけれども、何を今日訪ねてきたしるしにしたらいいのだろうか。

歌川国芳の『百人一首之内』
歌川国芳による周防内侍の浮世絵
British Museum, Public domain, via Wikimedia Commons

江戸時代の浮世絵師・歌川国芳による浮世絵です。
百人一首の和歌に合わせた情景が描かれています。

藤原忠家が御簾の下から腕を滑り込ませている様子が描かれています。