時雨の百人一首

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Translated by WILLIAM N. PORTER
English Audio:LibriVox

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後京極摂政前太政大臣ごきょうごくせっしょうさきのだいじょうだいじん

きりぎりす
鳴なくや霜夜しもよの
さむしろに
衣ころもかたしき
ひとりかも寝ねむん

後京極摂政前太政大臣

ころもかた
しきひとり
かもねむ

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きり

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91番歌
きりぎりす 鳴なくや霜夜しもよの さむしろに
衣ころもかたしき ひとりかも寝ねむん
作者:後京極摂政前 ごきょうごくせっしょうさきの太政大臣だじょうだいじん(1169年~1206年)
出典:新古今和歌集 秋
現代語訳
こおろぎが鳴いている霜のおりる夜、寒い筵むしろの上に自分の衣だけを敷いて、私はひとり寂しく寝るのだろうか。
解説
この歌は、妻を亡くした九条良経が秋の夜を一人で寝る寂しさを詠んだものです。当時、男女が一緒に寝るときはお互いの着物を枕がわりにして寝ていたようで、「衣かたしき」は一人寝を意味していました。
どんな人?
後京極摂政前太政大臣(九条良経)は、法性寺入道前関白太政大臣の孫で、九条兼実の次男です。長男・良通が22歳で夭逝したため九条家を継ぎました。土御門天皇の摂政となり、従一位摂政太政大臣として絶頂期を迎えますが、その2年後に38歳の若さで父の兼実よりも早く亡くなってしまいました。寝ていたところを天井から槍で刺されて暗殺されたという臆説もあります。
品詞分解と文法
歌のイメージ
九条良経の歌のイメージ

この画像は、William N. Porter氏が1909年にイギリスで出版した百人一首の英訳本『A Hundred Verses from Old Japan』の挿絵を元にAdobe Firefly(生成AI)で色を付けて、アレンジしたイメージです。

九条良経の略年表
1169年
九条兼実の子として誕生
1195年
内大臣となる
1202年
土御門天皇の摂政となる
1204年
太政大臣となる
1206年
死去
九条良経の系図
  • 茶字天皇
  • 天皇の代数
  • 紫字摂政・関白になった人物
  • 百人一首の歌番号(クリックで歌のページへ)
  • =婚姻
100%
藤原宗子 藤原忠通76 加賀局 兵衛佐局 崇徳7775 皇嘉門院 慈円95 九条兼実 藤原兼子 重仁親王 九条良経91 能保の娘 藤原重子 後鳥羽9982 源在子 九条道家 九条立子 順徳10084 土御門83 仲恭85

九条良経は、藤原忠通の孫で、九条家を興した九条兼実の次男です。兄の九条良通が早くに亡くなったため、家の後継ぎとなりました。若いうちから政治の世界で活躍し、20代半ばには内大臣に昇進しました。しかし、「建久七年の政変」で父・兼実が関白を解任されると、自身も一時的に朝廷から遠ざかります。

その後、30歳で左大臣として復帰し、後鳥羽上皇に信頼されて33歳で土御門天皇の摂政となり、35歳で太政大臣にまで昇り詰めました。しかし、38歳の若さで突然亡くなります。あまりに急な死であったため、寝所で刺殺されたとする説もあります。

良経の父・兼実は、藤原俊成・定家父子を庇護していました。良経は俊成に和歌を学び、自ら歌壇を主宰して、定家ら新しい作風の歌人を庇護しました。定家は良経の家司けいし(家の事務を取り仕切る職員)でもありました。また、書の才能にも優れて後京極流の祖となり、『新古今和歌集』の仮名序を執筆しました。

付録
こおろぎの鳴き声

再生ボタンをクリックすると、こおろぎの鳴き声が再生されます。

音声:効果音ラボ
本歌取りされた歌
良経は次の歌を本歌取りしました。本歌取りした狙いは、イメージの重層性にあります。本歌である『古今和歌集』の時代、宇治の橋姫は「愛しい人」の象徴として詠まれていました。しかしその後、『源氏物語』の影響によって、彼女は「孤独に朽ちてゆく儚い存在」という陰影を帯びるようになります。 良経は、本歌由来の古典的な華やかさと、源氏物語によってもたらされた寂寥感という、相反する2つのイメージを融合させました。

原文

さむしろに 衣ころもかたしき 今宵こよいもや
我われを待まつらむ 宇治うぢの橋姫はしひめ 『古今和歌集』詠み人知らず

現代語訳

自分の衣だけを敷いて今夜もひとり寂しく
私を待っているのだろうか。宇治の橋姫は。
『詩経』の影響
中国最古の詩集『詩経しきょう』の中に次の一節があります。
良経は、この漢詩を踏まえて、作歌したと考えられます。

原文

十月蟋蟀しっしゅつ
入我牀下しゅうか 『詩経』

現代語訳

十月に入ると、蟋蟀こおろぎは
私の寝床の下に入る